京浜急行電鉄「神奈川新町第1踏切」の踏切保安設備

2019年9月5日に
踏切内で立往生した大型トラックが通過電車と衝突し
トラック運転手が死亡した事故が起きた踏切の保安設備についての調査結果です。
(写真は2020年6月15日と2020年6月23日に撮影。
このため事故発生当時とは安全装置の状態が変わっている可能性があります)



【写真1】神奈川新町駅の1つ手前の子安駅の下りホーム上に設置されている
神奈川新町第1踏切の遠方中継第3特殊発光信号機(@)。
後で説明するとおり、事故後に増設されたものとみられる。
上下本線の間には品川起点19K300M地点の距離標(A)も見えている。


【写真2】上の写真の特殊発光信号機の拡大写真。
左下の標識の「新1」は神奈川新町第1踏切の
「遠3」は遠方中継第3特殊発光信号機の略。
経年に伴う汚れがほとんど無く
設置されてからあまり日にちが経っていないことを示唆している。


【写真3】子安駅の下りホームから神奈川新町駅方面を見たところ。
奥に見えているのは子安第1踏切で
まだ遮断機が閉まりかけで自転車が踏切道内にいるため
子安第1踏切の特殊発光信号機が赤く点灯している(@)。
上りホームの先には神奈川新町第1踏切の遠方中継第2特殊発光信号機(A)が
上下本線の間には品川起点19K400Mの距離標(B)が設置されている。


【写真4】子安駅の上りホームから神奈川新町駅方面を見たところ。
ここからだと神奈川新町第1踏切の遠方中継第1特殊発光信号機(@)
神奈川新町駅第1場内信号機(A)
神奈川新町第1踏切の遠方中継特殊発光信号機(B)などが確認できるが
下り列車の運転席からだと架線柱などに遮られ断続的にしか確認できない。


【写真5】子安第1踏切の北詰から神奈川新町駅方面を見たところ。
神奈川新町駅第1場内信号機(@)付近から線路は直線区間となり
下り列車の運転士はこの付近まで来て初めて
神奈川新町第1踏切道で立往生している障害物を目視確認できる。
場内信号機の下には
神奈川新町第1踏切の遠方中継特殊発光信号機(A)も見えているが
支障物の存在を知らせる対象の踏切を目視確認できる場所に
遠方中継特殊発光信号機を設置しても意味が無い。
品川起点19K600Mの距離標(B)との位置関係から
場内信号機の設置場所は品川起点19K560M付近
遠方中継特殊発光信号機のそれは同19K580M付近とわかるが
これは同19K970Mの神奈川新町第1踏切まで400mを切った場所である。
したがって最高時速120kmを出している下り快特列車の運転士が
第1場内信号機付近まで来てから
神奈川新町第1踏切道内の障害物や特殊発光信号機の点灯に気づき
非常ブレーキをかけても、それから停まるまでには500m余が必要なため
神奈川新町第1踏切の手前で停まることはできない。


【写真6】下り普通車(各駅停車)の運転席の背後からの前面展望。
子安駅を発車した直後、ホーム先端付近での風景。
下り列車の運転士は、この位置まで来て初めて
神奈川新町第1踏切の遠方中継特殊発光信号機(@)を確認できる。
右下に品川起点19K400Mの距離標(A)が見えていることから
列車の位置は同19K390M付近とわかる。
神奈川新町第1踏切は同19K970M付近なので
そこまでの残りは約580mである。
これは国土交通省令で定める「非常制動距離600m以内」を
僅かに下回る距離である。
したがって快特列車が最高速度である時速120kmを出していて
この場所で特殊発光信号機の点灯に気づき非常ブレーキをかけた場合
制動距離が伸びる雨天時などの悪条件下では
神奈川新町第1踏切の手前で停まれるかどうか微妙な位置だと言える。
しかし、この位置から特殊発光信号機が見えるのはほんの一瞬で
高速で通過する列車なら見落してしまう可能性が高い。
そうでなくても宅配便のトラックなど背の高い自動車が
子安第1踏切が開くのを待って停まっていたら
下り列車の運転士は@の信号機を確認できない可能性も考えられる。


【写真7】神奈川新町駅第1場内信号機(@)の手前での風景。
神奈川新町第1踏切の遠方中継特殊発光信号機(A)も見えているが
神奈川新町第1踏切道まではまだ見通せない。


【写真8】神奈川新町駅第1場内信号機を通過する直前の風景。
左端に「第一場内」の標識(@)が僅かに見えている。
下り列車の運転士は、ここまで来てようやく
神奈川新町第1踏切道の状態を自分の目で確認できる。
神奈川新町第1踏切の遠方中継特殊発光信号機(A)の標識(B)は
「新1遠」となっており、末尾に数字が無い。
このことは、この「新1遠」のみ
設置時期が他の「新1遠1」〜「新1遠3」などとは異なることを示唆している。
これら4つの特殊発光信号機がすべて同時期に設置されたのであれば
「新1遠」のみ末尾の数字を付けなかったのは不自然だからである。
Cは品川起点19K400Mの距離標。


【写真9】上の写真の遠方中継特殊発光信号機とその標識の拡大写真。


【写真10】神奈川新町駅の下りホームから見た神奈川新町第1踏切道。
画面左端には非常停止ボタン(○印)が見えているが
今回の事故でこれを操作した人はいなかった。


【写真11】神奈川新町第1踏切の北詰から
事故に巻き込まれた大型トラックが進んできた側道を見たところ。
踏切の両側には接近してくる電車を停止させるための非常ボタン(○印)も
見えている。
このような細い道を10トントラックが進んできて踏切へ右折してくること自体が
京急にとっては想定外の「もらい事故」だったとも言えるが
しかしこれまでに説明してきたとおり
神奈川新町第1踏切道内に支障物があることを知らせる特殊発光信号機が
事故発生当時は品川起点19K580M付近の
「新1遠」1ヶ所のみだったとみられることを考えると
京急の安全管理体制が万全だったとは言い難いのではないか。